夢のはざま
夢を見ていた。
いつから見始めたのか、これが本当に夢なのかさえわからない。
暗闇にいた。
周りに何があるのかわからない。
歩いても手を伸ばしても何にも触れない。
不安が押し寄せる。
漆黒しか映さない目を潰したくなった。
何も感じない両手を切り落としたくなった。
それ程の絶望。
どれぐらい続くのか分からない地獄。
突然光が現れた。
眩しくて目を瞑る。
痛みを放つ瞼を叱咤し持ち上げる。
差し入れた光はあなただった。
○
「起きたかよ」
ゆっくりを開けた瞳に映り込んだのはあなた。
あの闇に現れた光。
私の痛みを解放した救世主。
口を開けても上手く言葉を音にできずに、ぱくぱくと空気を震わすだけ。
あなたは呆れたような顔をしてため息をつく。
「お前が怪我で運ばれてくるのは珍しくないが、今回は今までで一番ひどい。大人しくしてることだな」
身体に力が入らない。
動かした右手を、あなたは握ってくれた。
私は必死に口を動かす。
音にならない私の感情はあなたに届くのだろうか。
「何日寝てたかって?2日だ」
2日。
ぼんやりと記憶を手繰り寄せる。
任務に赴いたのは6月4日であったはずだ。
その記憶が私の意識と繋がった瞬間、焦燥感に駆られた。
必死に口を動かす。
言葉にできないことに悔しさを覚え、涙が後を絶たない。
喉から零れるただの息の音が静かな病室に響く。
音が出るまで口を開ける。
”おめでとう“
このたった5文字の言葉が今は口に出せない。
掠れている視界で、あなたの顔を見る。
更に呆れた顔で一息つき、私に近づいてくる。
開け閉めをしていただけの唇が、愛おしいあなたのもので塞がれる。
離れていくのが惜しいほど、唇が喜んでいた。
「もういい。分かったから黙ってろ」
私の頭をひと撫でし、瞼に手を乗せる。
あなたの温かい体温と私の冷たい涙が混ざり合う。
ぬくもりが気持ちよくて、私はあなたの命令を無視してまた口を開ける。
“おめでとう、愛してる”
(2012/6/6)