早く早くと無意識に心が体を急かしていた。
日付が変わる前に会いたい。
あの人にそう言っても、馬鹿だと一蹴されるだけ。
そうだと分かっていても、どうしても伝えたい言葉が心にある。



水を走る小舟は、いつもと変わらないスピードのはずなのに、遅く感じた。
もっと早く。
割る水面を睨んで、焦りで頭がどうにかなりそうだった。








本部について、報告書を完成させるために足早に室長室へ向かった。
コムイは在室していなかったため、一人で黙々とペンを走らせる。








「ちゃんお疲れ様」
「コムイさんこそお疲れ様です」


コムイが戻ってきた。
まだ報告書は完成していなくて、私は時計を気にしながら文字を綴る。


「ちゃん、報告書は後でもいいよ。会いに行きたいんでしょ?」


この言葉を聞いた瞬間、私はお礼も言わずに部屋を飛び出し、彼の元へと走る。

もう寝てるかな。
鍛錬でもしているのかな。

どこにいるのか全く見当がつかないけど、気がついたら彼の部屋の前に来ていた。








コンコン
ノックをしても返事がない。
息を整え、そっとドアを開ける。
一番奥にあるベッドで、月明かりに照らされながら彼は横たわっていた。


「ユウ、誕生日おめでとう」


ベッドに腰掛け、彼の耳元で囁く。
聞こえていないのは分かっているけれど、言いたかった。
感謝の気持ちと、祝福を。


「生まれてきてくれてありがとう」


ぽたり、といつの間にか涙がこぼれ落ち彼の頬に流れる。


「まるでユウが泣いているみたいね」


くすりと笑うと、彼の目がゆっくりと開き、視線が交わった。
手が伸び私のほほに触れる。


「何で泣いてんだ、」
「嬉しくて。ユウの誕生日にちゃんとおめでとうって言えたのが嬉しくて」


変な奴、と苦笑しながら、まだ溢れる私の涙を親指で拭う。
重なる視線をそのままに、距離が縮まる。
やさしい彼の唇からは言葉では言わないが、ありがとう、と伝わった気がした。














明日を伝える










が鳴る









(2013/6/6)