「列車の中枢機関の故障により、明け方まで動けません」


大雨が降る真夜中、急に列車が止まった。少しまどろみの中にいた神田は、慌てて個室に入ってくる車掌によって目が覚めた。 今は任務が終わり、本部へと戻る途中である。 心底申し訳なさそうに説明をする車掌。それは本当に詫びているとも見えるし、ただ神田が身につけているローズクロスに怯えているだけとも見えた。 神田は腕を組み、何も言わず窓の外を見ていた。代わりに一緒に任務に就いていたファインダーが了解の意を答えた。


「次の駅が、さんと合流する駅だったのですが…」
「アイツも馬鹿じゃねぇ。駅の近くのホテルで一夜を明かすだろ」
「こんな大雨の中、駅で一晩待っていないといいのですが…」


心配性なファインダーだ、と神田は少しイラついた。電波が悪いのか、のゴーレムとは連絡がつかない。待つしかないと神田は再び目を瞑った。









しばらく経って、神田達のいる個室のドアが開かれた。神田は最初はまた車掌かと思ったが、違う雰囲気に目を開け視線を送る。


「…!お前っどうしてここに!」
「心配になって駅から歩いてきたの。列車止まってたんだね」
「お前本当に馬鹿だろ!こんな大雨の中来るんじゃねぇ!」
「事故とか心配で来たのもあるけど、どうしても今日中にユウに会いたかったのよ」


そう言っては自分の時計を見る。


「よかった!まだ今日終わってない」
「おい、それより体拭けよ」
「それより、ユウ誕生日おめでとう!」


は頭から爪先までバケツ一杯の水をかけられたかのように濡れている。その体を神田に寄せ、首に腕を絡めた。 神田は驚きはしたが、を払いのけようとはしなかった。いつの間にかファインダーはいない。神田はそれに何故か笑えた。


「離れろ。俺まで濡れる」
「背中に腕回してるくせに」
「…うるせぇ」


神田はぎゅっと一層を抱きしめた。


「ユウ、あったかい」


時間を惜しむというのはこういうのだろうか。
愛おしい人のもとへ形振り構わず向かうのが、愛という感情なのだろうか。


人は知ってる。人を愛す方法と、その愛を表現する方法を。
それは考えなくとも、体が勝手に動く。


はやる気持ちを抑えきれないことも、温もりを自然と求めることも皆持って生まれたことなのだ。


「今日はその感情が生まれた日、でしょう?」








天性の愛









(2010/6/6)