「お帰り、神田君。今回の任務もお疲れ様」
アクマ退治の任務から帰ってきた神田は、コムイに労いの言葉を受けていた。神田は返事をせず、報告書を突きつけ、部屋を出ようとしたが、引き留められる。
「あぁ、神田君!鈴蘭ちゃんが談話室で待ってるよ」
「何でそんなところにいんだよ」
知らないなぁ、と呑気な声を背中に、神田は足早とドアを開けた。
「おっ、ユウやっと帰ってきたさ!鈴蘭が談話室で待ってるさ」
「…知ってるっての」
「カンダ!鈴蘭さんが…」
「知ってるっつってんだよ!」
廊下でラビとアレンとすれ違ったが、その度に鈴蘭のことを言われ、神田は腹が立っていた。
同じことを何度も言われるのは、性に合わないのだ。もう誰にも言われまいと、急いで談話室に向かった。
「おい、こんなところで寝るな鈴蘭」
談話室に着くと、暖炉の前のソファで眠る鈴蘭を見つけた。もう6月だというのに、今年は寒い日が続いていた。
「風邪ひくだろうが…!」
「…んんっ」
神田が自身の来ていた団服を鈴蘭にかけ、ボスッと音を立てて隣に座ると、感じとったのか少し反応をした。
神田はそれを見て少し微笑む。鈴蘭の手に触れた。ずっと寒いこの部屋にいた所為か、冷たくなっていた。
神田はその小さな手を温めるかのように握り、目を閉じる。パチパチと暖炉の木が燃える音が何故か心地よく、少し体に伝わる炎の熱が神田の疲れた体を眠りへと誘った。
鈴蘭が神田に寄り掛かった。肩から伝わる鈴蘭の熱が安心感を与えていた。
二人は寄り添ったまま眠った。
「ユウ、起きて。風邪ひいちゃうよ」
それからしばらくして鈴蘭が起きた。いつ神田が戻ってきたのか、何故隣で寝ているのか分からず、不思議な顔をしながら神田を揺すっていた。
神田が不機嫌そうに鈴蘭を見たが、彼女はそんなことお構いなしに抱きついた。
「ユウお帰り!無事で何よりだよ」
「…ただいま、鈴蘭」
しばらく抱き合ったまま時が過ぎたが、突然鈴蘭が身体を離し、キラキラした目で言うのだ。
「誕生日おめでとう、ユウ!」
「あぁ…今日だったか」
「自分の誕生日くらい覚えといてよ」
「お前が毎年うざいほど言ってくるから、俺が覚えておく必要はない」
呆れたように言う神田だが、それでも鈴蘭は単純に嬉しがる。それを見て神田は自然と顔を緩ませるのだ。
「でもごめんね、任務で忙しくてプレゼント買えなかった」
「そんなものどうでもいい」
「よくないよ!毎年あげてたのになぁ」
女の考えることは分からない、と神田はため息をついた。鈴蘭はまた神田の肩に頭を乗せ、楽しそうに笑う。
「でもユウとこんなにゆっくりしたの久しぶり。すごく楽しい」
「そうかよ」
「私がユウからプレゼントもらったみたいだね」
子供の様に笑う鈴蘭の振動が肩から伝わった。それが不思議と不快ではなく、神田は何も言わなかった。
「ラビとかアレンに会った?」
「すれ違う度にお前のこと言われたぜ」
「よかったぁ、誕生日のことは何も言ってなかったのね」
「どういうことだ」
「私が皆にお願いしたの。ユウに一番最初におめでとうって言いたいから、先に言わないでねって」
「…」
「今ユウ呆れたでしょ。私にとっては大事なことなの」
少し怒ったような目で見つめる鈴蘭の唇を、神田は衝動的に奪った。
「礼はこれでいいのかよ」
「最初のキスは私からしようと思ったのに」