「名前、変えたいなぁ」

「何でさぁ?」

「気に入らないから。もっと可愛い名前がよかった」

「‘’って可愛いと思うけどなぁ」

「親につけてもらったわけでもないし」

「でも、名前は大切さ」



私は孤児で親の顔など見たことがない。路地で横たわっていた私を親切な人が拾ってくれた。 優しくしてくれたけれど、その人から貰った物などこの嫌いな名前ぐらいしかない。



「そんなに簡単に名前は変えちゃダメさ」

「簡単に名前をコロコロ変えてるラビに言われても説得力がないわ」


そうさね、と彼は笑って誤魔化していた。


「でも今変えても皆‘’って言っちゃうと思うんさ」

「……確かに」

「全然知らない人たちに、別の名前を教えればいいけどね」

「ラビはそうやって生きてきたの」


ラビの目つきが少し変わった。彼は何も言わなかったが、それは口に出さなくても肯定していることだと長い付き合いの中で学んだ。


「まだ、居るんでしょ…?教団に」

「俺が決めることじゃないさ。ジジィに聞いてくれさぁ」

「まだ、ラビのままで居るの?まだ聞き慣れたラビで居るの…?」

「…。大丈夫さ、俺はまだ居るしまだラビのままさ」


すごく不安になってきた。私達に何も言わずに何処かへ行ってしまうんじゃないか。ラビならやりかねない。 長年一緒にいる仲間がいきなり消えたらどんな気持ちなんだろう。私はまだ友達が死んだ、などそんな経験はない。経験などしたくもない。 それはとても悲しいことで、絶望的で。私にその苦しみから立ち直る力があるのかも分からない。自信が無い。 いつもラビと喧嘩している神田も顔に出さないだけで、きっと心の中では悲しむと思う。 そんな身近にあり、大きな不安に私は怯えた。そんな私を見てラビが抱きしめてくれる。人の温かさが本当に心地よいと思えた瞬間だった。


「私‘ラビ’って名前好きだから大事にしてね」


そして私はラビの頬に小さくキスをする。彼は少し驚いたような顔をして笑顔をこぼした。それが肯定の意だというのは嫌でも分かるのだ。










魔法のようなちから











(2007/12/25)