葉舟
- 12 - 神田は最後のアクマを冷静に片付け、六幻を鞘におさめた。顔にべったりとついた黒い返り血を団服の袖で拭う。 彼らの周りは西洋の建物が立ち並び、彼らの戦いの傷跡も少なくはなかった。街の住人は最初から居なくて、美しい家々はどこか寂しげな雰囲気をかもし出していた。 を見ると、彼女は目を瞑り空を見上げていた。何度も見慣れた光景に神田は溜め息をつく。 「またか」 「アクマに祈りを」 その姿はとても美しく見えた。女神は見たことはないし信じていないが、もし居たとしたらを見間違えてもおかしくないだろう。 は未だ祈り続けている。ピクリとも動かないので死んでいるんのではないかと思うほどだった。 しばらく経つとはゆっくり顔を正面に戻し、目を開けた。 「よかった。目を開けてユウが居なかったらどうしようかと思ったわ」 「終わったなら行くぞ」 雨が降ってきた。先程からの黒い空を見る限り、そろそろ降りそうだ、とは予測できていた。それはまるで、今まで祈り続けていた女神の涙のようだった。 何のために祈るのか。以前神田がに聞いた言葉だ。は‘アクマと私の未来のため’と言っていた。何故そこにの未来が出てくるのか分からなかった。 「もし本当にアクマが全て居なくなったら私たちは仕事がなくなる」 ひとつ息をはいて彼女は続けた。 「そうしたら私たちはどうする?みんな仲良く一緒に暮らす?」 そんなの嫌でしょ?私は良いけど少なくともユウは。面白みもなさそうに笑って言っていた。 「だから祈るの。アクマのため私とみんなの未来のため」 話の筋は入っているような気がした。神田は反論もしないし、アドバイスなど有り得ない。それをは分かっていてこの話をしたのかもしれない。肯定だけを求めていたようにも思えた。 「全て終われば何にでもなる」 「そうね。でも中途半端は嫌なのよ」 「勝手にすればいい。俺は何も言わない」 悲しそうな顔をしたに神田は頭を撫でてやった。撫でたと言うより‘頭に手を置いた’の方が正しい気もした。 それでも彼女は笑う。彼もつられてか、晴れ始めた遠くの空を眺めて顔を緩めた。 「ユウも私の真似?」 「するかよ」 帰るぞ、と神田は言って歩き出す。が、何処にと聞く。 「ホームに」 ○ 2年も前のことなのに、今で鮮明に覚えている。あの後から私は少しずつ祈らなくなった。現在がよければいいと思うようになったからかもしれないし、祈らなくても未来は明るい気がしたから、かもしれない。 でもあの時のユウの言葉で変われたような気がする。私にはホームがあると。 |
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