過去に戻るまで
 




葉舟




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「ついさっき入った情報だよ」


アクマ大量発生の情報が載った報告書を見ながら、コムイさんは言った。 私は運命の残酷さに閉口してしまった。でもすぐにやることは決まっていた。もう逃げ道はない。


「私達に行かせてくれる?」
「どうせそこの孤児院に行くつもりだったでしょ?ついでにね」


軽く言ったように聞こえたが、それはとても重く私の耳に届いた。 ユウを見ると黙って頷いてくれた。


「でも、すぐには行かないで。2日後に出発すること」


すぐにでも発とうとしていた私の考えはコムイさんには分かってしまったらしい。私は苦笑して頷いた。 そして、コムイさんからヘブラスカのところへ行き、シンクロ率をもう一度調べるように言われた。









「シンクロ率が…上がっている…68%…」


ヘブラスカが優しく教えてくれた。私はシンクロ率が上がったことに驚き、一緒に来てくれていたユウの顔を見る。 彼もまた驚いた顔をしていた。


「何か…目的が…見つかったのか?…
「目的…あれは目的じゃなくて、通るべき道なんだよ」


ヘブラスカは私にやるべきことができたからシンクロ率が上がったのだと推測した。 私も感じる。体内のイノセンスが、細胞が、騒ぎ始めている。 この時を待っていたかのように、この時のために生まれてきたかのように。


「無理は…するな…
「ありがとうヘブラスカ」









「あの子に会うことが私にとっての最大の戦いなんじゃないかな」
「お前にとってその子供はそんなに大きな存在だったのか?あまり関心がないように思えていたが」
「隠してただけ。本当は心の奥でずっと考えてたの」


レチルクラーレ村に出発する前日となった。 コムイさんと話して、今回の任務は私とユウだけで行くことになった。 ファインダーや他のエクソシストは一緒には来てくれない。それなりの覚悟が必要だった。


「私の我がままで危険な目にあわせちゃうね」
「いい。どうせどの任務でも危険は危険だ」


言葉の裏に隠れる彼の優しさが、今は一番ぬくもりに溢れていた。









出発当日の朝。私達は抱き合いながら寝ていた。私がまた夜に涙を流したからだ。 あの日から流れることは無かったけれど、今日という日を前に恐ろしくなったのか。 震えながら泣いた。今まで以上に涙を流し、震えが治まらない私をユウは抱きしめてくれた。 その後、私はすぐに寝てしまい、涙も震えも止まったのか全く分からない。 でも、今の私はとても落ち着いている。きっと安らかな気持ちで眠っていただろう。


「いってらっしゃい、
「絶対帰ってくるから、待っててリナリー」


地下水路に皆が見送りに来てくれた。リナリーと無事を祈るように抱き合った。 たくさんの人達のおかげで私はいるんだ、そう実感した。涙は帰ってきてから流そう。




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(2009/8/12)