アクマの街
 




葉舟




- 18 -





目が覚める。また夢を見たようだった。夢にしてははっきりしすぎていた。 おそらくその夢が、自分の記憶に刻みつけられるほどの強い過去の話だったからにちがいない。 見たくない光景も、はっきり見えてしまう。人がアクマに取り込まれるところ。 ユウが返り血を浴びたところ。自分が情けないほど弱いところ。


「起きたのか」


右側からユウの声が近くに聞こえた。どうやら私は、ユウの肩に頭を乗せて寝てしまったらしく、目を覚ましてもまだその状態だった。慌てて頭を上げようとする。 しかしユウの手が私の頭を包みこみ、また彼の肩に頭が乗る。 私たちは、まるで2羽の小鳥が寄り添うかのように互いの温もりを求め合った。


列車が止まる。いつまでも続くように思えたこのぬくもりは、すぐに離れていった。目的の駅に着き、外に出る。 忘れるはずがないあの記憶が、何度も何度も繰り返し照らし出される。 私はまだ、レチルクラーレ村に戻って来たとは感じていないようだが、この記憶が私を過去へと陥れるのだ。 この村の中心には時計塔があり、鐘が鳴っていた。だが、人が居ない。どこを見渡しても、人の気配すら感じられないのだ。 なら何故、鐘の音が鳴り響くのか。


「これは…アクマの街ね」
「俺達は歓迎されているようだな」


何度も何度も鐘が鳴り響く。時計塔を見ると、アクマの影が見え隠れし、鐘を打っていた。 私達の周りに、レベル1のアクマが数十体集まる。私達は同時にイノセンスを発動した。 レベル1は倒すことこそ簡単だが、数が多いとそれなりに厳しくなる。私達は協力することで、アクマを倒していった。 静かになる。周りのアクマは全て倒し、また鐘の音だけが響くようになる。 すると、鐘の音が突然止み、鳴らしていたアクマが顔を出す。 レベル2以上だろうか、今倒したレベル1とは姿が全く違った。アクマは私たちを見て笑い、何処かへ去って行った。 私が追おうとすると、ユウが私の肩を掴み制した。


「生存者を探すぞ」
「…孤児院の近くなら、民家がたくさんあるわ」


私達は村の中央から、西の外れまで行った。レチルクラーレ村は他と比べるとかなり大きな村で、人口もそれなりに多かったようだ。 私は記憶からこの村を探し出す。今向かっている孤児院に、あの子を預けてきたのだ。 孤児院のあるエリアに着く。手当たり次第に周りの民家に生存者が居ないか、はたまたアクマが居ないか見ていったが、やはり人影は見られなかった。 最後に孤児院に向かう。私の心には、悔やみだとか、怖さにも似た感情が、昇ったり、沈んだりしていた。 院の中に入ると、私のイノセンスが疼くようになった。ここが故郷だと、帰ってきたと言うように。


、大丈夫か?顔色が良くない」
「…大丈夫。大丈夫よ」


ユウの顔を見る余裕さえもなかった。私は自分に言い聞かせるように呟き、イノセンスと胸のざわめきに耐える。 院の奥へと進むと、扉で行き止まりになっていた。この孤児院は教会が運営しているので、この重たい扉を開けると、神聖な空間が広がっているのだ。 その教会の中へと入っていく。高い天井には自由を感じ、中央にある十字架には哀れみが浮かんだ。 その十字架の下に倒れている人がいた。私達は駆け出し、その人影に近寄ったところで、私は足を止めていた。ユウは不思議そうに振り返った。


「アーリア…?」


震えたのは苦しく発した言葉と体だけではなく、イノセンスもまた小刻みに揺れていた。



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(2009/9/22)