名前に宿る愛
 




葉舟




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何処からともなく風が吹く。窓もドアも、外から風が入ってくるような穴は開いてはいない。 双子が手をと神田に向ける。風は次第に強くなり、と神田の周りに集まり、二人を完全に包み込んだ。


(っ息が…できない…!)


風はとても強く、止むことはない。この風の中では息が出来なかった。


っ!ここから出るぞっ」


神田が呼びかけるが、は息が出来ず、強風の中、立つことも出来なくなり、地面を掴んでいた。 何故か神田は、息することも、立つことも出来た。


(あの双子のアクマ、を集中的に攻撃してやがる)


神田はとの距離を縮め、肩を支えて立たせた。息は微かに出来ているようだった。 六幻を振るい、風に突破口をあける。勢いをつけて風の壁から出る。は肩を揺らし、大きく息を吸っていた。


「風を操るのか。まるでイノセンスだな」


アクマがイノセンスのような特性の技を使う。皮肉なものだと神田は思いながら、まだ動けそうにないを守るように前に出る。 は咳き込むのをやめ、イノセンスを発動して立ち上がった。神田と同じように、剣が握られている。


(‘アーリア’はイタリア語で‘風’。そういえば、彼女達の母親は風が好きだった)


はただ悲しく、打ち寄せる感情を消すように剣を握り締めるだけ。 そして、彼女達を一番傷つけずに、楽に浄化できる方法を考えていた。


(‘サチェルタ’‘アーリア’……‘聖なる風’)


彼女達を名づけた両親の思いが伝わる。今、彼女達が風を操りを襲っていることは、名前を呼んだときから決まっていた運命なのだろうか。 は再び涙を流す。また強くなり始めた風ですぐに乾いてしまっても、雫を流し続けるのだ。


。お前は何しにここに来た」


不意に神田が口を開く。は核心を突かれたように肩を震わせ、神田の背中を見つめる。 しばらく風の音だけが響いていた。


「…けじめをつけに。自分の心に、過去に」
「なら泣くな。前を見ろ、


(あぁ。ユウが名前を読んでくれるから、私は戦えるんだ)


は神田の隣まで動いた。二人並んで剣を構える。また風が集まってきたが、二人に焦りはなかった。


「私の足が止まっていたら名前を呼んで。そうすればまた歩き出せる」


神田は横に居るの顔を見る。彼女の表情は柔らかく、何か確信に満ちているようだった。


「「風っていいよね。自由で、壮大で」」


今まで黙っていた双子が、話し出す。と神田は身を引き締め、戦闘態勢に入る。 は覚悟を決めていた。二人を楽にさせる方法は、自分のイノセンスで彼女らを壊すこと。


(罪を負うのは自分一人でいい。憎まれるのも)


「「パパもママも風が好きだった。でも私達はこの名前が嫌い。愛がないもの」」


風が強くなる。彼女達の感情によって強弱が決まっているかのように。


「愛がないなら名前すらつけないわ」
「「黙、れ」」
「貴方達のパパとママは大好きな風の名前を貴方達につけたの」
「「っ黙れ」」
「愛はぬくもりと共に宿っているわ」
「「黙れっ!」」


そう、気付いていないだけ。彼女達はまだ幼いから気付いていないだけ。 強風の中、の声は不思議と響いた。双子は感情のままに片手をに向け、風を吹かせる。 はすばやく動き、双子に近づく。神田は彼女を援護するように後からついてくる。 突風が吹く。強すぎて前に進めず、目も上手く開かない。 は剣の形となっていた自身のイノセンスをロープにし、天井に引っ掛け、上へ逃げる。 そこはまだ風がわずかしか吹いていなかった。


(遠距離型の攻撃が得意のようね。近距離攻撃なら負けない…)


双子の集中攻撃が一旦止むと、はロープを解き、双子の目の前へと降り立った。 そしてまた瞬時にイノセンスを剣へと変え、アーリアの懐に飛び込み、攻撃した。神田はサチェルタへと攻撃していた。 双子はまた風を吹かせ、周りに風の壁を作り出す。 壁を壊そうと斬りかかるが、簡単には崩れそうにはなかった。 二人は一旦間合いを取る。そして見つめあい、頷き、お互いが意としていることを分かり合った。




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(2009/12/29)