葉舟
- 22 - 神田が地面を蹴って双子を目指す。この場所は教会だが、祈るためのイスや机は風で吹き飛ばされ、広い空間と化していた。 双子は神田に攻撃をする。腕を向かってくる神田へと伸ばし、横に空を切る。 すると、風の刃が飛んでくる。先ほどとは違った攻撃に神田は少し驚くも、六幻で払ったり、飛び避けた。 双子が神田に攻撃している間に、は自らのイノセンスである水の粒子の力で瞬間的に双子の懐へと移動した。 黒の教団へと帰って来た時と同様に。しかしこの技は体力を使う。それを踏まえての作戦だった。 が剣を振るう。それは早すぎて、双子のどちらを斬りつけたのかは、すぐには分からなかった。 目の前に信じられない光景があった。双子はアクマである。攻撃を受けたら‘壊れる’はずで、‘血は出ない’はずだ。 しかし、血を流す双子の一人が今実際にいる。鈴蘭は驚愕し、言葉が出ない。 「「驚いた?私達、半分人間で、半分アクマなの」」 年相応に面白おかしく笑う双子。普通なら微笑ましいこの状況は、の不安を甦らせるのは難しくなかった。 「「アーリアの左半分と、サチェルタの右半分がアクマ」」 そう言うと、双子は体を寄せ合い笑う。 「「こうすると、完全なアクマが1体出来るの」」 逆に考えると、1体の人間も出来ると言うこと。は躊躇う。 双子を倒すということは、アクマを壊すことだが、人間も殺すということになるからだ。 血が滴る自らの剣を見る。美酒を飲んだかのように、のイノセンスが騒いでいた。 立ちすくむに、双子が攻撃を仕掛ける。は何も抵抗せずに風の刃に当たった。 「!」 が飛ばされ、倒れる。神田は彼女の元へ行き、無事を確かめる。 気絶しているようだった。眉間には皺を寄せ、厳しい表情だった。 「お前は本当にとことん優しい奴だ」 神田は彼女の髪を撫で、立ち上がり六幻を構える。 が何も見ていない間に全て終わらせてしまおう、そう思った。 しかしその瞬間、今まで剣となっていたのイノセンスが光だし、水の雫のような形で彼女の周りを飛び回る。 光が増す。眩しくて何も見えない。神田は目を閉じるしか出来なかった。 ○ 体中が熱い。原因は知っている。私のイノセンスだ。そういえば名前をまだつけていなかったことに気がついた。 ―――藤の涙 脳に直接話しかけてきているよう。その声は高くもなく、低くもなく、聞きやすいトーンで語りかける。 瞬間的に思った。この声は私のイノセンスなのだ。そして今聞こえた‘藤の涙’というのが、私のイノセンスの名前なのだ。 今まで名前を呼んであげられなくてごめんね。 ―――お前は本能的に私の名前を呼んでいた。 おまえ自身が聞こえなかっただけ。 だがもうお前は、俺の名を聞くことができる。 本当ね。私は昔から貴方を呼んでいたみたい。 慣れているみたいにすぐに口にすることが出来るから。 ―――起き上がるんだ。 今のお前はあの双子を壊せる。 でも、人間の血が通ってるの。 私には壊せない…殺せない。 ―――お前がしなければ、あいつがやるだろう。 お前は願ったはずだ、あいつにはもう人を殺して欲しくないと。 確かに願った。 私はユウにはもう人を殺して欲しくも、傷つけて欲しくもない。 ―――ならば、お前が殺すしかないだろう、。 お前だけが人の死を感じ、人の死を目の前に見るだけで済むのだから。 藤の涙…貴方はいいの? 人殺しの道具となっても。 ―――私はお前が主である。 お前が苦しければ、私も同様に。 お前が幸せであればそれも同様に。 私はお前を裏切りはしない。 あいつもそうだろう。 ユウも裏切りはしない。 それはとても嬉しいことで、悲しいこと。 ユウはいつだって私の所為で苦しんでいるのだから。 ―――あいつの苦しみを減らしたいのなら、お前が双子を殺すことだ。 それであいつは喜びはしないだろうが、お前は一歩踏み出せる。 それをあいつは喜ぶはずだ。 ○ 再び辺りの光が増し、一瞬で下の廃れた教会に戻った。神田は目を開ける。 すると、さっきまで倒れていたが、剣を片手に起き上がっていた。 「、お前」 「私が決着をつけるわ」 神田が言葉を発する前に、は駆けて行く。神田は舌打ちをし、追いかけようとしたが止めた。 彼女からは見たことのない殺気が溢れ出ていたからだ。 右手に握られているイノセンスからも殺気が見える。 あの優しいが人を殺そうとしている。神田は憤りを感じながらも動けなかった。 |
||