葉舟
- 25 - 「どけ、この中にがいるんだろ」 「嫌よ、が入れないでって言ったの」 が怪我をしたということは教団にいれば嫌でも耳にする。 神田は自分の任務が終わり、ホームに帰ってくるとその情報を聞きつけ、医務室にやってきた。 「何では嫌がってんだ」 「神田にまた怒られるからじゃない?」 リナリーは少し機嫌の悪そうに、入り口で神田を止めていた。 神田はリナリーよりも更に機嫌が悪い。彼女を押しのけてでも中に入ろうとした時に、中から声がした。 「リナリーもういいよ。誰かさんはもう怒ってるから」 伝わってきた声は少し笑いも含んでいて、リナリーはおとなしく道をあける。 神田は早足でのベッドまで行った。 「、いくつ怪我をすれば気が済むんだ…!」 「任務に怪我は付きものでしょう。ユウだっていつも怪我してるじゃない」 「…俺はすぐに治るからいい」 「理屈が通ってないわよ」 は笑いながら、まだドアの辺りでこちらを窺っているリナリーに同意を投げかけていた。 リナリーはまだ渋い顔をしている。その元凶はのベッドの横にいた。 「…おい…その赤ん坊は何だ」 「……AKUMAの残した子供よ」 「連れてきたのかよ」 「そのままにしたら死んじゃうでしょう。辺りに預けられる施設もなかったし…それに」 「それに…何だ」 「この子…何か不思議な力を持ってる気がするのよね…」 「適合者かもしれねぇってことか」 「そういうこと」 呆れた、と神田は呟き、小さなベッドで眠る赤ん坊の顔をもう一度見て、その隣の椅子に腰かけた。 はそんな神田を見て微笑み、赤ん坊を抱き上げ髪を撫でた。 「私、この子を育てようと思うの」 「…はぁ?」 「だからユウがパパになってね」 「…お前大丈夫か」 「私は正気よ」 笑いながら子供を気遣うその横顔は、母親そのものだった。神田が言い返そうと思った矢先に、コムイが入ってきた。 「ちゃん、検査の時間だよー」 「はーい!じゃあユウ、この子のこと見ててね」 「おい!待てよ!」 神田の返事を聞かずに、は赤ん坊を神田に抱かせ、出て行ってしまう。先ほどまでいたはずのリナリーの姿もなくなっていた。 神田は再びため息をつき、どうかそのまま寝ていてくれ、と祈るのであった。 ○ 「ユウ、ただいまぁ…寝てるの?」 が検査から戻ると、神田は器用に赤ん坊を抱いたまま眠っていた。 落とすまいと寝てもなお強く組まれた両腕を見て、鈴蘭は愛おしく見つめた。 「ユウは立派なパパになりそうね」 赤ん坊の穏やかな寝顔を見ながら、はベッドに腰を掛けた。 |