葉舟
- 06 - その時だけ時間がすごく遅いような気がした。 アクマに攻撃され血を流して立っている神田。 は神田が死んでいるように見えて怖さが募り立ちすくんでいた。 昔の光景にそっくりだったからだ。その時の記憶が鮮明に戻ってくる。 アレンがアクマを攻撃し、体が半分になった。 アクマが見えないうちにアレンは神田とトマを担ぎ歩き出す。 「さん!」 アレンが声を張り上げを呼ぶ。その声で我に返った。 アレンのもとへ走って行き、神田に近づく。 「ユウ、ユウ!」 涙を流しながらは大声で愛しい人の名前を叫んだ。 「大丈夫です。気を失ってるだけです、さん」 を落ち着かせ、綺麗な歌が聞こえる地下通路のほうへ進んでいく。 (さんの驚き様、普通じゃなかった…) 「ユウは私が担ぐわ。アレンも怪我してるでしょ」 アレンの辛そうな表情を見たは神田を軽々と担いだ。彼女の頬を伝っていた涙はもう流れていなかった。 「私は人形だよ…?」 地下通路へ着くと、あの女の子がそう言った。 「キミが人形だったんですね」 アレンが驚いたように呟いた。ララは近くの大きな石柱を持ち上げこちらへ投げてきた。 アレンはトマをおろし、イノセンスを発動して投げられた石柱を掴み、投げた。 ララに向けてではなくまわりの石柱へ当たるように。 落ち着いたララはグゾルが死ぬまで離れたくないと言った。 グゾルと出会った日のことを教えてくれた。の瞳からは再び涙が静かに流れていた。 「最後まで人形として動かせて!お願い」 ララの言葉は切実な思いが込められていた。 「ダメだ。今すぐその人形の心臓をとれ!」 神田が苦痛に耐えながら言った。アレンは驚いている。 「分かったわ。ユウの言うとおりに」 がイノセンスを発動しながら一歩前へ出た。涙はまだ流れていた。 「さん!?」 アレンは驚いて黙ってを見た。 「俺達は何の為にここに来た!?」 神田が声を張る。 「と…取れません。ごめん僕は取りたくない」 アレンが下を向く。神田が団服を投げつけた。 「その団服はケガ人の枕にするもんじゃねぇんだよ…!エクソシストが着るものだ!」 神田が怒るのにも無理はないと思った。 自分も昔はアレンと同じ考え方だったのでいつも神田に言われていたことを思い出す。 「アレン。できれば私もとりたくない」 何処か悲しげな表情をするアレンには穏やかな声で話しかける。 まるで子供をあやすように。 「でも私たちはエクソシストよ。イノセンスの回収に来たの。任務遂行が最優先なのよ」 はイノセンスを回収するためにララへと近づく。 しかし、途中でふらつき、座り込んでしまった。 「お前はイノセンスの使いすぎだ。休んでろ」 神田が抱きとめの代わりにララの前へ進む。 「犠牲があるから救いがあんだよ新人」 すれ違いざまに神田がアレンへ言い放った。 ララへと六幻を向ける神田。 「お願い。奪わないで」 必死に頼むララ。それでも神田は剣を向け続ける。 「じゃあ僕がなりますよ」 アレンがララとグゾルを庇うように神田の前へ出る。 「僕がこのふたりの“犠牲”になればいいですか?」 とことん優しすぎる子だと思った。 「僕が…アクマを破壊すれば問題ないでしょ!?」 そして神田より扱いにくい子だとも確信できた。 「犠牲ばかりで勝つ戦争なんて虚しいだけですよ!」 神田はアレンを殴ったが、傷口が傷むのか座り込んでしまった。 「とんだ甘さだなおい…可哀相なら他人の為に自分を切り売りするってか…?」 アレンは顔を向けたまま静かに聞いていた。 「テメェに大事なものは無いのかよ!!」 はこの言葉を聞いたあと、急に胸が痛くなった。 まるで神田の言葉が胸に刺さるよう。 そのまま力が入らなくなり意識が遠くなってきた。 ただアレンの悲しそうな声が頭に響いてくるだけだった。 |
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