葉舟
- 07 - 目が覚めたら太陽が輝き、鳥が鳴いていた。 白い天井が見える。腕には点滴。ぼんやりと自分の状況を把握する。 「私、倒れたんだっけ。ここは病院か…」 全てを把握したは自分で点滴の針を腕から抜き、病室を出て二人を探す。 一室から聞き覚えのある声が聞こえた。 「帰る。金はそこに請求してくれ」 受話器を片手にベッドに腰掛けた神田を見つけた。 「ユウ!よかった。イノセンスはどうなったの」 神田に駆け寄り問いかける。 神田はの頭に手を乗せ、イノセンスは無事だ。と優しく言った。 「よかった。ユウもイノセンスも無事で。アレンは?」 「奴はまだ人形と一緒にマテールにいる」 まだ見かけないアレンを心配したに神田は少しムっとした表情で答えた。 「ちゃん、倒れたって聞いたけど大丈夫?」 神田が持つ受話器からコムイの声が聞こえた。受話器を受け取り、耳にする。 「もう大丈夫です。やっぱりイノセンスの使いすぎでしょうね」 神田はもう直ったからと包帯をとり医者に押し付け、スタスタと歩いていく。 もトマを連れて神田の後を追う。コムイに神田に代わってくれと言われ受話器を渡す。 コムイと神田の話に耳を傾ける。神田の回復力の低下。にとって恐れることだった。 「神田君達3人は一緒に本部へ帰ってきてね」 「コムイさん。夕日が沈む時の綺麗な海が見たいの。少しだけ時間を頂戴」 受話器を神田から奪い、話す。コムイは、うーん。と少し困ったように考える。 「まぁちゃんは半年間頑張ってくれたし、教団に帰ってから休んでなかったしね」 「いいの?」 「楽しんでおいで。もちろん神田君も一緒なんでしょ?」 コムイのにやけた顔が思い浮かぶ。はもちろん、と答え神田を見た。 神田はしょうがないと言うような表情をしていたが否定はされなかったのではそれで良かった。 「アレンには私から言っておく。明日のお昼には帰るようにします」 は終始笑顔で話していた。 マテールに近づいてきた。 電話を切り、神田と並んで歩く。こんなの久しぶりだ。 「楽しかった、なんて言うとあの2人に申し訳ないかもしれないけど…」 は下を向き、少し悲しげな顔で言う。 「ユウの言葉、すごく重みがあった」 微笑して神田を見る。神田はのそんな顔を隠すため抱きしめた。 こんな悲しい顔のも、笑ったも、戦うも全てが半年振りなのだ。 抱きしめる感覚でさえも、逆に新鮮になる。 「お前がそんな顔するとどうすればいいか分からなくなる。止めてくれ」 「頼み事だなんてユウらしくないわね。この半年で変わったの?」 可笑しく笑うをさらに強く抱きしめ、離した。 「何寝てんだ。しっかり見張ってろ」 神田は膝に顔を埋めるアレンに近づいた。 「あれ…?全治5ヶ月の人がなんでこんなところに居るんですか?」 「治った」 「ウソでしょ…」 「うるせェ」 一息ついて神田が続ける。は何も言わずに少し離れたところに立っていた。 「コムイからの伝達だ。俺はの我がままで海辺の町へ行く」 我がままは余分よ。とが少し怒りながら口をはさむ。神田は続ける。 「お前は本部にイノセンスを届けろ」 「一緒に行けなくてごめんね」 「分かりました。楽しんできてください」 アレンが笑った顔は何処となく悲しそうだった。それに気付いたのか神田が言葉を紡ぐ。 「辛いなら人形止めてこい。あれはもう“ララ”じゃないんだろ」 「二人の約束なんですよ。ララを壊すのはグゾルさんじゃないとダメなんです」 「甘いなお前は。俺達は“破壊者”だ“救済者”じゃないんだぜ」 二人の会話を聞きはやはりアレンは昔の自分によく似ていると思った。 考え方がほとんど同じなのだ。いつも今のアレンのように神田に注意されていた。 「………わかってますよ……でも僕は…」 アレンが言葉をすべて言う前に今まで聞こえていた綺麗な歌声が止まっていた。 「歌が止まった…」 様子を見に行く。ララがグゾルを抱きしめるようにして止まっていた。 アレンがララに近づいたとき再び綺麗なソプラノが聞こえたような気がした。 「神田…それでも僕は誰かを救える破壊者になりたいです」 (それが一番ね。平和ではないと思うけど) は目を閉じ、神田に寄り添った。 神田が腰に手を回してきてくれたことには驚き笑ってしまった。 |
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