葉舟
- 9 - 神田とが教団へ帰ってきた。神田はイノセンスの所為で寝てしまったを担いで。 「ちゃんどうしたの」 神田が教団内へ入ると同時にコムイが駆け寄ってきた。最近こんなことが多くなってきたので心配になったのだろう。 「あっちでは良かったんだが、汽車に乗ってから寝ちまった」 「またイノセンスの使いすぎかな」 「たぶんな」 「最近多いよね。確実に半年前にいたときより多くなってる」 コムイは真剣な顔をして考えていた。神田も黙る。 「でもたぶん半年間もの長期間の任務で体もイノセンスも疲れているんだと思う。しばらく任務には出さないようにするよ」 コムイは普段のような笑顔を交えて言った。神田も少しは安心したようだ。 「その代わり神田君は任務が増えることになるけどね」 ウィンクひとつ。神田は無視して歩いていく。“あとで報告書出しにきなよ”と後ろから声が聞こえた。 「ん……」 「起きたか」 神田が部屋へ向かっている途中、が目を覚ました。 「もう教団についたの?私また寝てた?」 「あぁ。お前の体やイノセンスの状態が良くなるまで当分任務はないそうだ」 「最近多いのよ。本当に疲れが原因ならいいんだけど」 そう話すはまだ眠たそうだ。神田は部屋で寝ているように促した。 「俺は報告書を出しに行く。コムイのことだ、どうせすぐに任務に行けと言われる」 神田は面倒だと言うような顔をしてドアの方へ向かう。は気をつけてねと笑って言った。 ○ 1時間ほど経った頃、は寝ていたベッドを抜け出し外へ出た。 「コムイさん。ユウってもう出発しちゃった?」 「さっきこの部屋出て行ったばかりだから今、地下水路にいるんじゃないかなぁ」 はお礼をひとつ言って水路へ向かった。 「ユウ!」 が水路についた頃には神田はもうボートに乗っていて出発するところだった。 の声に気づき近づいてくる神田には笑いながら飛びついた。 「本当に気をつけて。私の知らないところで死んだらお墓作ってあげないから」 「わかった」 神田は微笑し、にキスをひとつしてボートに乗り込み出発していった。 「相変わらずだなぁ、」 懐かしい声が響き、の耳にも伝わった。 「ラビ!」 「久しぶりさぁ!」 振り返ると8ヶ月振りに会う仲間の姿。私が長期任務に行く時、ラビは2ヶ月前に任務に行っていたから、ユウ達とは半年振りなのだがラビは8ヶ月振りとなっていた。 本当に久しぶりな感じがして、8ヶ月という時間は長いと思えた。でもラビは何も変わっていない。私が帰ってきたときにも教団の誰もが変わっていなかった。それが何より嬉しかったのを覚えている。 「いつ帰ってきたさ」 「1週間ぐらい前かな。ラビは今帰ってきたの」 「そうさぁ。コムイんとこ行ったら皆が一斉に‘が帰ってきた!’って言うもんだから急いできたら」 「…見られてたわけね」 「ユウも俺が見てたこと気づいてたさ」 「分かっててやったのユウは」 はぁと溜め息をつく。私とラビは司令室に行くところ。ラビは報告書を出しに、私はコムイさんのお手伝いに。 「見送りはできたかい」 「えぇちょうどボートに乗るところだったわ」 「それはよかった。ちゃん、少し話しがある」 コムイさんの表情が変わった。 ラビは私たちとは少し離れたところでリナリーに文句を言われながら報告書を書き直している。 「イノセンスのことですか」 「その通り。カンダ君に聞いたくと、君は任務に行く最中の汽車の中でいつも寝ている」 「えぇ。自然と眠ってしまうの」 「イノセンスを使った後いつも倒れてしまう」 「…イノセンスの調子が悪いってこと?」 「たぶん半年の疲れが溜まっているんだと思う。帰ってきて早々に任務へ行かせたからね」 「いいのよ。あの後ユウと過ごせたから」 「万が一のことを考えて君には少しの間、ここでデスクワークをしてもらいたいと思ってる」 「…分かったわ。たぶん今の状態で任務に行ったとしても足手まといになるだけだからね」 「よろしく頼むよ。一番は休むことだ。調子が悪くなったりしたら遠慮せずに休んでもらって構わない」 「私は何をすればいいの。この膨大な数の書類の整頓しろだなんて言ったら殴るわよ」 「まぁそれを一番やってほしいんだけど、殴られるのは嫌だから、電話番を頼めるかな」 「それなら喜んで。書類の整頓以外だったら何でもやるから」 「分かったよ。じゃあ今日はこれでいいから、しっかり休んで」 「はい。お休みなさい」 「お休み。それと明日、一度イノセンスの検査をしたいんだ、いいかな」 「いいですよ。それじゃあ」 私の体の異変にコムイさんは半年間の任務の疲れだ、と言っているけどそれは本当なのだろうか。 何も根拠はないけれど、違う気がする。もちろん違うという根拠もない。もっと何か大きな問題なような気がして不安になる。無性にユウに会いたくなった。 |
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