「お酒の味がする。飲んだの?アレルヤ」


軽く交わしたキスがとても大人な感じがしたのはきっとお酒の所為。 彼の頬は少し赤く染まっていて、しっかり見ないと分からない。どうせスメラギさんに薦められて断れなかったのだろうと思った。 新しいお酒の相手が見つかって嬉しがっていた彼女の顔が浮かんでくる。お酒は慣れが大事なのよ!と言いながらアレルヤに歩み寄る姿が目に見える。 彼女の大変さはアレルヤも知っている、だからこそ断れなかったのだろう。私もたぶん、彼と同じ。


「少し、ね」
「お酒に依存してはダメよ。美味しいものは時々が一番なんだから」


彼はついこの間20歳になったばかり。辛い過去と戦ったのもついこの前。喜びと悲しみは重なって彼に圧し掛かる。 彼は一切顔には出さずに、口にも出さずにいた。そんな彼を見るのが一番苦しかった。 でもアレルヤは、私を見る方が苦しいと言う。自分の人生の重さや、辛い過去や任務よりも私を見ている方が苦痛だと言う。 私はただ心の中で叫ぶ。悲しみをお酒なんかで薄めないでほしい。私がそばにいてあげるのに、とは口には出さない。結局は私も彼と同じ。


「変わらなきゃ、。もちろん君だけじゃない、僕もだよ」
「だからお酒を飲むの?」


彼は少し困ったように笑って「違いないよ」と言った。


まわりを眺める。漆黒の海に浮かんだ船の周りには無数の篝火が明かりを灯している。 壮大で、私の小ささがよく分かるこの場所はとても気に入っている。 彼にそう話すと、そういう考えを変えるべきだ、と一喝される。
‘は小さな存在ではないんだから’やさしいことば。


「私は変わってないの、かな」
「そうだね、まだなのかもしれないね」
「アレルヤは変わったの?」
「少し変わったと思わないかい?」
「少し、ね」


彼は誇ったように笑っていた。彼の真似をしてからかってみた。自分でもそう思っていないくせに、と私も笑う。


「笑い方はすごく変わったよ。やわらかくなった」


変?と聞くと彼は何も言わずに首を横に振る。‘綺麗だよ’あたたかいことば。


描くのは簡単でも現実にするのは難しい。何度も失敗してやっと分かったはずなのにまた想う。 それでも良いと言ったのは変わる前の貴方なら今はダメなのかな。 ‘抗うのは過去だけでいい’かなり前、彼が言った言葉が響く。
ソレスタルビーイングの目的である戦争根絶。これが成し遂げられたとしてもアレルヤが幸せになれるような気がしてこない。 離ればなれになるのが当然のように思えてくる。彼の苦痛を少しでも和らげるには、私が変わるしかないのかな。 ‘当たり前’と言う彼が愛おしい。私はまた想い描く。自分の未来と彼の幸福、そして温かく広がるそらの行方を。







彼方へ想いを走らせる






(2008/3/15)