人は普段全く信じてないものを、自分が危機に陥ったとき信じ、助けを求める。しかし、普段信じていないものなのだから信じられた者にとっては全く信頼がない。 そんないいように助けてもらうはずもなく、人は求めるのだ、あぁ神様、と。 私も今、同じ状況にいる。普段全く信じないのに、いま都合よく願っているのだ。神様、仏様と。 神様と仏様は違う。種類も違えば、信徒の人種、生まれた国も、容姿だって違うはず。なのに助けを二人に求めるとは可笑しなこと。 結局どちらでも、誰でもいいからとにかく助けてほしいだけ。分かりやすくて、一石二鳥で、都合のいい祈り方である。 何もかもが違うもの同士が助け合って、ましてや普段全く信じていなくて信頼がない者に手を差し伸べてくれるはずもない。 それを知っていて私を初め、愚かな人々は神事続け助けを求める。しかしその愚かさが人である証拠ではないのか。それを成してこそ人ではないのか。人は醜い。



でも私は愚かな神、仏への祈りを止め、私は普段信じているものに助けを求めた。‘銀時’と。



「おい、今肩ぶつかっただろ。謝れよ」
「何言ってんですか。そっちからぶつかってきたんでしょう」
「どっちでもいいじゃねぇか」
「そうですね。なら帰らせてもらいます」
「いやいや、今のでおじさん肩脱臼しちゃった」
「それはお気の毒に。もっと鍛えたほうがいいんじゃないかしら」
「んだとコラァ!」
「ホント普段なに食ってるのかしら。もっとカルシウム摂取しなさいよ、脆いわね」
「黙っておけばペラペラと…!」
「治療費も払えないほどお金に困ってるの。可愛そうね」
「ちと痛い目にあわねぇと分からねぇようだな」
「ふざけないで、私、怪我して…」
「おーいこんなところで何ですか、新手のナンパですか」
「銀時!」
「わりぃこれ俺のだから、毒舌で悪かった」
「私は物じゃないから、人だから、しかも最後の本当に必要ないよねそれ」
「言葉の綾だから」
「ハイハイ」
「ちょ、いいの、これいいの?攻撃していいのこれ」
「Bでダッシュだよおじさん」
「うるせーよ!」
「そんな刀の振り方じゃ、木刀の俺でも勝てないよ」
「ちょ、何で肩ばっか狙ってんの!?イテテ本当に脱臼しちゃうから!」
「さっさと帰れよおじさーん。片腕なくなるよ」
「っ今日はここまでにしてやるよ!今度はしっかり前見て歩けよ!」
「あのおじさん結局いい人だったよね」
「うん、自分が痛い思いしただけだよな」


信じるものは救われる。本当だ。









おじさんとの戦いモドキのあと、俺たちは家路についていた。


「あれ、何か忘れてない、今日何の日だ」
「とうとう(1010)借金1010万円の日」
「いやいや聞いたことないから、今作っただろそれ、しかも最後の金額無理やり入れただろ」
「あっ、思い出した、ナルトの誕生日だ。ケーキ買わなきゃね」
「お前そんなにナルト好きだったのか、そうなのか!」
「分かってるよ、いつも一緒に居る三十路近い誰かさんの誕生日だよ」
「そんな遠まわしに」
「ごめんね、何も買ってないからこれでいい?」


さらっと酷いことを普通に言いやがったコイツ。でも何かくれるって言うしいいか。は右のポケットから銀色の四角いライターを取り出し、俺に放り投げた。プレゼントを放り投げる奴がいるだろうか。


「あれ、お前タバコ吸うっけ、てか俺もタバコ吸わないよ」
「いいじゃん、花火するときに使いなよ」
「季節はずれだから、本当に」
「あっじゃあ私、先に帰って夜ご飯作るから1時間後に帰ってきてね」
「それまで何しろっつーんだよ」
「何でもいいから時間潰してきてよ。絶対それより前に帰ってきちゃダメだから」
「わーった、わーった」


‘じゃあ後でね’とは先に帰っていった。さっき貰ったライターには
‘Happy Birthday to Gintoki’
と彫られていた。全く不器用な奴だ。俺に似て。
novena



(2007/10/10)