ディアナ
日本で一般的に一夫多妻制が認められないのは、日本人女性の独占欲が強いからだと思う。
男性が浮気をするのは分かりきっていることなのだから、きっとそれは認められていることなのだと思う。仕方がない、と世間が言っている。
でも仕方ない、と思っていても女性は浮気が許せないし、恋人が他の女性と仲良くしているだけで嫉妬する。
その女性への敗北感さえ持つだろう。泣くか怒るか、どちらかはその人の性格によるだろう。私はきっと、泣きながら怒ると思う。
そして目の前に試練が現れる。
「なに、これ」
「違うぞ、断じて違うぞ」
焦る銀時を余所目に私は涙と怒りが溢れ出していた。さっちゃんが銀時の上に乗っかっている。
この状況を見れば誰でもそうなるだろう。浮気だ、不倫だ、色んな言葉が頭を回る。
「さっちゃん?いくら友達だからってこれは過剰すぎない?」
「あら、涙声で言っても全く迫力無いわよ、?」
さっちゃんはメガネを失くした様で反対方向を向いて言っている。それでまた苛立ちが募る。銀時は頭を掻きながら溜め息をしている。
彼女は、いつの間にか居なくなっていて天井の大きな穴だけが残されていた。
今から思えば、冷静でさえいればこの穴を見た瞬間に分かるはずが、焦りと涙で全てが見えなくなっていた。
「言い訳というか、説明してもいいか?」
「いいわ、もっと泣けてくるから」
お気に入りの着物の袖で目尻に溜まった涙を拭う。染みが出来てしまった、なんて今はどうでもいいことを考えた。
帰る、と早口で言って玄関へ向かって歩き出す。朝ごはんを作ろうと買ってきた食材は置いていくことにした。
ちょっと待て、と銀時が追いかける。それを聞いて私は早歩きだった足をわざと緩める。結局は追いかけて欲しかったんだ、と自分を笑う。
「俺も独占欲は強い方だぜ?」
私に深く口づける。彼の笑顔は自信やらなんやらで満ちていた。
私がその笑顔が好きなことを知っているのか、それが癖なのかは分からなかったけど安心した。
この顔の火照りを直すには水を浴びるしかないような気がした。
目の奥が温かくなる。声が上手く出ない。こんなに涙腺は緩かっただろうか。
でも今泣いたら全てが崩れていってしまいそうで、雫が頬を伝わないように我慢した。
それを見て銀時があの笑みを繰り返す。涙は私の意志には従わず、勝手に流れ出した。
「知ってるか?ディアナっていう月の女神はお前みたいに勘違いが激しい奴だったそうだ」
‘お前はディアナよりも酷いのかもな’また笑う。この言葉は銀時が誤解を解くために一番簡単な言葉だったのだと思う。
数ヵ月後、ディアナについての本を読んだけど、‘勘違い’の一言も出てこなかったことに一番腹が立ったということは、銀時には秘密にしておこう。