冬夜
夕方5時になったばかりだというのに空はもう暗く、薄っすらと光る月が揺らいでいた。月の微かな光に映し出される周りの流れ雲は、昼間の白さを隠して今は闇に溶け込み時折姿を見せるだけだった。
電灯はとっくに点いていて黒い道をところどころ赤色に照らしていた。斑な赤い点は不気味だったが、もう見慣れていた。
待ち合わせ場所はその電灯の下。時間はまだだと言うのに、総悟はもう待っていた。彼の影が細く長く伸びていた。
「走ってこなくてもよかったでさァ」
「誰かに追いかけられてる気がして…」
早く会いたくて、何て言えなくて見え透いた嘘をついてしまった。総悟はそれに気づいたようで、記憶に焼きつ印事象的な笑みをしていた。
こういう時は、大丈夫だったか、とか紳士的に話しかけてくれればいいのに。急に恥ずかしさが込み上げてきて、目を逸らしたら、抱きしめられた。
「は嘘をつくのが下手だ」
「自分でもよく分かっているつもりです」
そのまま、抱きしめられたまま、いつまでも居られるような気がして永遠を感じた。でも‘永遠’何て信じてはいない。信じているのは可能性だけ。
「お前また仕事変えたのかィ」
「何で分かるの」
「のことなら何でも知ってるぜィ」
「家も大家さんから出てけって言われててね。もう総悟の家に乗り込もうかなぁ」
「いいぜィ?ただ俺は隊士達とも一緒に暮らしてるから暑苦しいかも」
「ホントに言ってるの」
「俺は構わないぜィ。どうせその新しい仕事もすぐクビだろ」
「っ、今度は長続きさせてみせる!」
「どうだか。まぁその気があるならいつでもいいでさァ。金ならある」
「ムカつくわねホント」
強く冷たい風が吹き、私を囲む。急いでいて上着を忘れたことを今頃思い出した。
「そんな格好じゃ寒いだろ」
「上着忘れたのよ」
総悟はサド顔になり笑っている。マフラーも巻いていてとても暖かそうだった。コイツ絶対何も貸してくれないだろな、と思っていると私の肩に見慣れた服がのせられた。
「しょうがねぇ、今だけ真選組一番隊隊長だ」
不意に彼の唇が触れ、離れていく。私の唇はまだ熱を持っていた。