コンコン、とノックの音が響く。広い部屋に控えめに届いたその音を聞いて、ボンゴレ十代目のイスに座っていた綱吉はどうぞ、と応える。
ドアを開け中に入ってきたは、黒いスーツを着ていた。彼女は守護者ではない。守護者のバックアップや、他の小さな任務が仕事だ。
「報告書を出しに来ました」
「お疲れ様、」
綱吉が報告書を受け取ろうとすると、電話が鳴った。ごめんね、と言って電話に出る。
「もしもし…ああ、獄寺くん」
の肩が揺れた。獄寺の報告を聞く綱吉を凝視する。そして電話が終わってしまう前には話しかけた。
「電話、隼人ですか?」
「そうだよ」
「隼人に、ごめんなさいと伝えてください」
「…変わろうか?」
「いいです」
綱吉は不思議に思いながら、獄寺に伝えた。獄寺は慌てた様子で言う。
「そこにがいるんですかっ」
「いるよ。何?喧嘩でもしたの?」
「…そんなところです」
声のトーンが下がったのを聞いて、何かあったんだと確信がわく。面倒なカップルだと綱吉は心の中で笑った。
「何で携帯が繋がらないんだ、と伝えてください」
に伝える。ボスとして二人の仲直りの仲介役はやらなければならないことのように思えた。
「任務で壊れてしまって」
獄寺にそれを伝える。心なしか、電話越しの彼の呼吸が上がっていた。走っているようだ。獄寺にまた伝言を頼まれる。
「ここに居ろ、だってさ」
「隼人が来るんですかっ」
それを聞いて、は報告書を机の上に置いて慌てて出て行こうとする。ドアノブに手をかけようとした瞬間、ドアが開いた。
「っ隼人」
「…失礼します、十代目。報告は後で」
獄寺は肩で息をしながら早口で言うと、ドアの前で固まっていたの手を引き、部屋を出て行く。綱吉は微笑ましく思った。
「…隼人、怒ってるの?」
「……怒ってねぇ」
獄寺は大股で歩く。は腕を引かれ、小走りになってしまう。
「聞きたいのはこっちだ。お前は怒ってんのか」
「…怒ってないよ」
廊下の真ん中で獄寺の足は止まる。後ろにいたの方へ振り向くと、掴んでいた手を引っ張り、抱きしめた。は獄寺の背中を子供をあやすようにぽんぽんと叩く。
「…怒ってると思ってた」
「ごめんね、隼人」
獄寺はまだ離れない。は仕方がないというような表情で笑い、思いっきり抱きしめる。
「俺たちは喧嘩してたのか?」
「お互い怒ってなかったんだから、喧嘩じゃないよ」
二人で笑い合う。2日前はの誕生日だった。は口には出さなかったが、それなりに獄寺に何かを期待していた。
けれど、獄寺は何もくれないし、目も合わせてくれない。疲れた、と言ってすぐ寝てしまった。それから一言も話さずに今日に至った。
「あの時プレゼントは用意してなかった、間に合わなかった。は何にも言わないだろうと思ってたんだが、やっぱり罪悪感があった」
「それで私の顔も見ずに、寝たのね」
「…悪かった、」
「いいよ。おめでとうはちゃんと言ってくれたし」
「本当は今日買いに行ったんだ、プレゼント」
くだらないことで悩んで、勝手に思い込んだり。自分たちはまだまだ子供だと二人は思った。
そしてまだ抱きあっていた二人はやっと離れる。左手を出せ、と言われてその通りにが差し出した。
手のひらを上に向けて差し出したのだが、獄寺は違うといって手の甲を上にした。
そしてポケットを探り、出てきた箱は、見ただけで何が入っているのか分かるものだった。
「冗談でしょ」
「結婚指輪じゃねぇ。俺がを不安にさせないようになったら、本物をやる」
中指に通されるシルバーの指輪は、いつ測ったのか知らないが、ぴったりはまった。
ふとが獄寺の左手を見てみると、今もらったばかりの指輪と同じものが中指にはまっていた。
それを見ては微笑み、獄寺の唇に小さくキスをした。照れくさそうに笑った獄寺の顔をは記憶に焼き付ける。一番いい笑顔だったから。
「隼人がそばにいてくれれば、絶対不安にならないから」
「必ずそばにいてやる」
薬指の約束