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happiness











「さん、大人のメイク教えてください!」
「いいけど…何で?ハルちゃん」
「可愛くなりたいんです!」
「誰か好きな人でもいるの?」
「はひっ!さんにはお見通しですね」


頬を少し染めて話すハルちゃんは何とも可愛らしかった。私はツナがボンゴレ十代目になってからのアジトに来て半年ほどしか経っていないけど、ハルちゃんが誰が好きで、どれくらい好きなのかも分かってるつもりだった。


「でも何で私に?」
「さんは憧れの人ですから!」


ハルちゃんは私を憧れの人と言う。私は彼女に何かしてあげたことはあっただろうか?私に憧れなんて抱かないほうがいいと思った。何もしてあげられないのだから、彼女の失望が大きくなってしまう。


「でもハルちゃんは、そのままがいいと思うけどなぁ」
「…六道さんに、そう言われた事あるんですか?」
「えっ?」
「彼氏さんにそう言われたから、さんがナチュラルメイクなのかと思って」
「言われたことは…あるかもしれないわね」


目を輝かせて問う彼女に、私は戸惑いながらも曖昧に答えた。彼女が期待するような甘い出来事もないし、彼が一方的に言っていることが多いから。


「じゃあさんの言う通りにします」
「ごめんね、何も出来なくて」


私がそういい終わると同時に、部屋にノックの音が響いた。ドアに近づき開けると、彼が立っていた。


「六道さんですか?では私はこれで」
「あぁ、ハルちゃん、まだいいのに」
「お邪魔ですから」


ウィンクしながら出ていく彼女の気遣いに笑ってしまう。そんな期待できるようなことはしないだろうに。


「彼女と何はなしていたんですか?」
「恋愛トークがしたかったみたいね」
「女の子ですねぇ」
「でも彼女が望んでるような恋愛トークは出来なかったわね」


突然、骸が後ろから抱きしめてきた。突然のことに心拍数が上がる。抱きしめられるのは、初めてじゃないのに。


「僕達の関係は恋愛という枠に入っているのでしょうか」
「…さぁ。でも…私は貴方についてきたんだから」


後ろから私を抱きしめる骸の表情は見えない。けれど、どことなく頭に浮かぶのは、貴方が少し驚いているところ。私は今まで思っていても口には出さないことが多かった。


「ハルさんが、まだいますよ」


ドアの向こうでこちらを窺っているようだった。気を使ってすぐに部屋を出て行ったけれど、やはり気になっていることろは、女の子らしい。見られているなら、と私は骸から離れようとしたけれど、彼は私を向き合うように引っ張った。顔が近くなる。鼻と鼻がぶつかるところで止まった。


「ちょっと、骸…!」
「キス、してもいいですか?」
「っ…いちいち聞かないでよ」


私が目を逸らして言うと、彼の唇は美しく弧を描き、私の唇と重なった。深い深いキスだった。唇が離れても呼吸が荒い。


「こんな情熱的なキス、久しぶりな気がします」


彼はまた笑う。その頭に残る彼の笑みは、私にとって幸せの対象だった。



(2009/9/1)