あなたのキスはいつも甘いものだと思っていた。
でも今のは苦い。
初めて感じた味覚。
苦い理由を知っている。
あなたがさっき別の女性と口付けを交わしていたから。
あなたの唇は私だけのものではないと分かったから。


でもあなたはペテン師。
浮気も私への愛も偽りなのかもしれない。
真と偽が飛び交うこの状況にスリルを味わっているのは私だけではない。
きっとあなたも。


「騙すっていうのは案外面白いわね、雅治」
「誰を騙したんじゃ?」
「あなた」
柄にもなく雅治は驚いた顔をした。
私は笑う。
これも騙し。
でも驚いた彼の表情も嘘かもしれない。
これは駆け引き。
これはゲーム。
相手の裏を読み、表も読む。
雅治も私の意図に気づいたのか美しく笑う。


「一緒にいて飽きんのお、は」
「それはどうも」


それは嘘。
それは真実。


「お前さん、今日誕生日じゃろ?」
「え」
思わぬ言葉に驚く。
ああ今日は確かに誕生日だった。
何、と聞くとまた顔が近づく。


「おめでとさん」


不意討ちだ。
またキス。
これは偽り?
これは真実?
甘い?
苦い?


「雅治、嫌い」


とっさに答えた言葉はこれ。
ただこれは騙したわけじゃなくて、素直に気持ちを伝えるのが恥ずかしかっただけ。
その証拠に私はそっぽを向き、頬は赤くなっている。


「それは嘘じゃろ?」


雅治はクスりと笑うのだ。