「一杯どうかな。もちろん二人で」


花鹿と立人の結婚式が行われた日の夜。披露宴が終わり、家路につこうとしていたころ、ユージィンからこう誘われた。 私は‘イエス’としか言えなかった。彼もそれを知ってて誘ったに違いない。私が彼のことを好いているから。


「久しぶりだね、」
「ルマティ殿下の戴冠式以来ね」


私が彼を避けていたと言った方が正しい。 彼が花鹿しか見てなかったことも、私には興味がないことも全て知っていた。 そして花鹿と立人が結ばれ、それを知った彼が大きな衝撃を受けたことも。 彼のその傷ついた心に入り込もうとはしなかった。 薄汚いやり方で、傷を癒すためだけに私を求める彼の姿は見たくなかった。 そんなことで彼が振り向いてくれたとしても、嬉しくはないはずだから。 でも今の彼はどうだろう。花鹿と立人の結婚式。二人の幸せそうな姿を見て辛くないはずはない。 今も、戴冠式の時も同じではないのか。


「でも急にどうしたの。私なんか誘って」
「君が寂しそうにしていたから」


貴方の方が寂しそうよ。私は彼の目を見て心の中で思った。彼はさっきから一度も目を合わせてはくれなかった。


「辛くはないの、ユージィン」
「何が?」
「二人の結婚、とでも言っておきましょうか」
「…辛くなくは、ないよ。花鹿がそばにいないんだからね」
「だから私とお酒を飲むの?」


私がそう言った後、横を向いていたユージィンの顔がこちらへ向き、私の目をしっかりと見た。 あぁこの目だ。私はこの目を直視できないくらい好きで、この目の持ち主も同じぐらい好きなのだ。 今度は私が目を逸らした。美しすぎる彼の目を私は直視できなかった。


「花鹿を失くして分かったよ。君の存在の大きさと…ぼくがどれほど君に見惚れていたか」
「ほ、本当にどうしたのユージィン」
「どうしたんだろうね。君の姿が見えなくなってから、ずっと君のことばかり考えてたよ」
「う、嘘」
「本当」


抱きしめられる。私は何もできなくて、体が固まった。 今の状況が私の願ったことだと分かるのに時間がかかった。


「花鹿の悲しみを癒すための私なのではないの?」
「決して違うよ、」
「なら…花鹿の前で誓って」
「いいよ、何なら今からでも?」
「…冗談よ」


二人で抱き合いながら笑った。その抱きしめる力は強くて、もう放してくれないのではないかと思うほどだった。


「花鹿のことを好きな貴方が好きだったのに」
「悪趣味だね」
「貴方ほどではないわ」


目と目で話す。彼の目に射抜かれて、私は目が離せなくなった。 どうすればこの貴方への愛を表現できるのか分からなかった。 けれど、今は抱き会うことが一番の表現だと感じた。


「キスをしてもいいかい」
「聞くなんて野暮ね」
「ぼくは自分から好きになった子は、花鹿と君だけだからね」
「…いいわよ」


彼は抱き合うより、キスが一番の表現だと思っているみたいだけど。








endearment