「斎藤さんさえいればいいと思っているのは、私だけかな」
「…だけではない。俺も同じだ」


いつもはあまり顔を見て話さない斎藤さんが、今は私の目をしっかりと見ている。それが嬉しくて、恥ずかしくて、赤くなるのを自分でも感じた。


「斎藤さんは、表情に出さないから不安だったの」


斎藤さんは何か言いたそうだったけど、口を閉ざしてしまった。その拍子に視線も外れる。私はどこかに寂しいと思う感情が生まれた。


「それでも、行ってしまうの?」
「あぁ。大丈夫だ、俺は死なない。いつだってそうだっただろう?」


確かにそうだった。新選組に所属している限り必ず訪れる浪士との斬り合い。その時は斎藤さんは大した傷もなく帰ってきた。 しかし今は違う。敵は浪士などという小さなものではなく、長州という大きな莫大なものだ。私は戦うわけではないのに恐怖を感じる。私が泣き喚いたところで、斎藤さんが戦に出ないわけはないのに。


「斎藤さんは会津のために戦えばいいのに…。他に何があるのよ…」
「最終的には会津の下で戦おうと思っている。しかし今は違う。お前を守るためだ」
「えっ?」
「がいる京を守るために、俺は戦う」
「斎藤さん…」


彼はまた目を見て話してくれた。その言葉は強くて、柔らかくて、優しくて。全く不安を感じさせないものだった。 私は確信する。彼をずっと待ち続けよう。彼が死ぬことはない、私も彼と過ごしたこの京で待とう。


「、俺はもう行かねばならない。待っていてくれるか」
「ええ、待つわ。貴方は約束を破ったことはなかったもの」


あんなに優しい言葉を貰ったのに、私は涙を抑えることができなかった。彼は穏やかに微笑み、私の頬に手をそえる。 ぬくもりが伝い、生きていることを実感できた。彼が離れていく。あの確信も、このぬくもりがなくなると脆くなるものだと思った。 それほど寂しさが私の体内にはあった。けれど戦場へ向かう彼の背は勇ましくて、私は目を離れられない。 信じて待つ。その終わりが見えないような行為は、いつも終わりを求めている私には容易い事にも思えたのは、貴方の言葉が重く響いたからでしょう。












約束