「可哀想だね、神田君」
「あ?」
鉛色の空に下、二人揃って古いバス停で雨宿り。
二日ぶりに教団へ帰還出来ると思った矢先の雨に、気分もあまり良い方向へは行かない。
かれこれ一時間椅子に座って他愛ない会話を交わして過ごしてきたが、土砂降りは続く。
足止めを喰らってから予定を変更しバスの到着を待ってはいるが、何せ田舎町なのだ。
一時間に一本の運行に、溜息が出てしまう。
不意にそう呟いたに、神田は横目で彼女を一瞥した。
「だって、今日は記念日でしょ?」
「何の記念日だ?」
「神田君のよ」
「…………………知らねぇ」
驚くかと思えば、どこか納得したような苦笑を浮かべて、彼女は視線を神田へと向ける。
宝石の様な瞳が映したのは、そこら辺の女性より圧倒的に整っている綺麗な横顔。
「神田君ってさ、こういうの忘れやすいんだね」
「だから、何なんだよ」
「知りたい?」
首を傾げてそう問うに、神田は眉間に皺を寄せて顔を向ける。
「私ね、リナリー達と一緒にお祝いしたかったの。
多分アレンは嫌がるだろうから、無理矢理引っ張ってきてさ、ジェリーさん特製のご馳走を囲んで……」
「おい、勝手に話を変えるな」
「変えたつもりはないよ?」
クスクスと笑う彼女に、神田の眉間の皺がより深く刻まれる。
けれどはそんなこと知ったことではないといった感じで、暢気に先を続けた。
「コムイさんや科学班からのプレゼントには要注意。何が起こるか分からないからね。
それから、偶然ティエドール元帥が帰還して、デイシャやマリもプレゼント片手に登場」
「」
「ん?」
「俺の質問は無視か?」
漂わせているオーラから、彼が怒っているのだと分かる。
地を這うような低い声も、それを示している。
彼女が内心零した苦笑を神田が知る由もなく、はゆっくりと椅子から腰を上げた。
「主役の神田君が眉間に皺を寄せて部屋に入ってきて、そしてみんなでこう言うの……」
振り向いたの顔に浮かんでいる笑みは、まるで天女のように美しく、女神のように優しく。
太陽のように暖かなそれに、神田は軽く目を見開き、出てきそうになった言葉を呑み込んだ。
「Happy birthday」
そこで漸く気づいた神田が、小さく言葉を零す。
そんな彼にクスクスと笑い、はそっと彼の唇に己のそれを重ねた。
誕生日プレゼントは、愛溢れる甘いキス。
Happy
birthday
Ripte 管理人さまの神谷さまからサイト1周年記念で頂きました!
素敵な文章で本当に嬉しい限りです…!ありがとうございました!
Seti 管理人 ハツキ (2007/4/15)