アクマの破壊だとか、魂の救済だとか、この世界はつまらないことだらけだ。他にもっと、やらなくちゃいけないことがあるだろう、なんて生意気にも思ってしまうのだけど、よくよく考えてみるとそれは何だろうと見つからない始末で、結局、わあ世界もだけどわたしも実はかなりつまらい奴だったんだなと実感するだけだった。
地面に転がる無数の死体。アクマもあれば、同胞達のもある。どちらのものかわからないくらいの夥しい量の血が、それぞれ混ざり合い、不快な臭いを作り出していて、またそれが腐臭と混ざり合い、とここはもう地獄と化している。くさいし気持ち悪いし景色悪いし疲れたし、もう早く帰りたいなあ。帰ったらまず一番にシャワー浴びて、そのあと食堂にいって甘い物たくさんたのんで、リナリーが居ればお話しながら頼んだもの一緒に食べて、それからコムイに報告して、等と帰ったらしたいことを延々と考えていたのだけども、考え出したら止まらなくなるのでとりあえず誰が生きてるかな、とそう思いゆっくりと辺りを見回す。すると遠いところで丁度、アクマに止めを刺す瞬間の彼を見つけた。ここからかなり遠いが、はっきりと見える。上からまっぷたつにするように刀をおろして、そして刀についた血を吹き飛ばすために勢い良く横にふる。それがどことなく祈りを捧げるときにする仕草に似ていて、わたしは彼には絶対に聞こえないように笑った。あなたの攻撃の仕方がアーメンって言って十字切る仕草に似てたから笑ってました、なんて言った日にはあのアクマと同じ末路を辿ることになる。あの人にユーモアは通じない。

「ユーウー、それで最後?最後だよね?よし、じゃあ帰ろうか。」
「テメエ何様のつもりだ、一割ほどしか殺してねえくせに。」
「あれ、今日はユウって呼ぶことには怒らないんだ、珍しい。」
「お前は天邪鬼だからな。」

ふん、と人を馬鹿にした時にするような笑いをして、ユウはかちゃ、と刀を鞘に戻すとすたすたと歩きだした。あれ、なんか少しだけ賢くなっちゃったなあつまんない、と思うだけで決して口にはしないけれども、いつものように食いついて来ない彼に僅かならの不満を抱きながら、少し先を行くそんな彼の背を小走りに追いかけた。
足を進める度に血液が飛び散って、靴が赤黒く変色している。わたし達エクソシストが犠牲を伴いながらも破壊して救済した、アクマと、犠牲となった尊い人間の血だ。それを見て、いつも思う。わたし達が救済という大義名分の下でいくら頑張っても、結局は破壊だけで、救済などできていないのでは、と。我ながら似合わない考えである。いつもならこんなこと思うよりも先に、汚れてしまっている靴をいかに綺麗に洗い落とせるか、一体どの洗剤を使えば綺麗になるかとかを思って、いや洗わなくてもコムイに言えば新しいのを貰えるかもしれない、もしそうなら帰って速攻洗ってしまったら洗い損だ、とか思うはずなのに、今日はなんだかネガティブ全開だ。ユウはユウでいつもと違うし、なんだか調子が狂う。

「ねえユウ。ここにいるアクマって、みんな幸せものだと思わない?ずるいよね。」
「は?幸せなわけないだろ。」
「なんで?アクマになる、それってつまり自分を想ってくれてる人が存在してるってことでしょ?幸せじゃない。わたしにはそんな人存在しないからなあ。まあその分アクマになる心配はないけど、ちょっと羨ましいと思っちゃう。誰もいない、ひとりは、さみしいねえ。」

そう言ってケラケラ笑っていると、不意に目が眩んだ。気が付かなかったけれども、夜が明けていたのだ。燃えているような空に、実際燃えているであろう太陽が覗いていて、そこには幻想的な景色が広がっている。わお綺麗、ちょっと見てみなよユウ、と進めてみたものの、言ってすぐにこの男が果たして景色をみたことにより感動を覚えるだろうか、と思い立ち、少しだけ後悔した。まあいいや、わたしだけでも感動しておこう。それで帰ったらみんなにこの感動する景色のことを話せばいい。

「えーじゃあユウさん、そろそろ帰ろうか。」
「もしも、」
「んー?」
「もしもお前が死んだら、不本意だが俺が呼んでやるよ。それで伯爵もろともお前を殺す。いっとくが、お前はエサだからな、エサ。」

おら、帰るぞ。そう言ってすたすた足早に去っていこうとするユウを呆然と眺めがなら、今言われた台詞をもう一度あたまの中で反復させた。え、わたし、死ぬ、不本意、呼んでやる、エサ?ええええ?えっとユウそれは暗に………と思ったところで彼が大分遠いところまで歩いているところに気が付き、急いであとを追いかける。ぜえはあ早いよユウ置いてくつもりかこのやろう、と悪態をつきながらちらっと彼の顔を見れば、そこにはやはりいつもとまるで違うユウが居て、うわあこりゃいいもん見た、さっきの景色と一緒にみんなに話そうなどと企みながら「ユウってば顔まっかだようひひ」と言うと、その言葉が地雷を踏んだのか、それとも皆に話しちゃおうというわたしの考えに気が付いたのか、はたまたにやにや笑っているわたしの顔がただ単にむかついたのか、ユウはただ一言、「六幻抜刀」と言ってイノセンスを発動させた。やはり彼にユーモアは通じないようだ。





Risplendere!


(ひとりはさみしいねえなんてもう言えません。何故なら終わりを迎えてもなお、彼が傍にいてくれるから。)