一定のリズムで揺れる車体。

けれど、特注の豪華な部屋では、そんなもの一切感じはしない。



「もしもーし。君は誰?」



なんて、おふざけ口調で言ってみると、案の定受話器から聞こえてきたのは、



「……切るぞ」



という、怒りのオーラで包まれた言葉だった。

もう数ヶ月会ってはいないが、相変わらずの彼にホッと胸を撫で下ろした。

彼はこうでなくちゃ。

そう胸中で零し、口隅を持ち上げる。



「切らないでよ。折角電話かけたんだから」

「どうせ用事なんてねぇんだろ」

「用事がなかったら、電話かけちゃいけないの?」



「当たり前だ」と即答され、思わず苦笑する。



「酷いなぁ」

「うるせぇ。俺は忙しいんだ」

「私だって忙しいのよ?これからまたイノセンスを回収に行くんだから。……ってか、実は用事があったりする」



憧れる、「普通の恋人」に。

常に生死の境に身を置く私たちにとって、他愛のない時間さえとても貴重なもので。

「普通」の、一般人にとっては当たり前のことも、私たちにとってはそうではない。



祝いさえ、面と向かって言えないもどかしさ。



「……神田」

「あ?」



来年の今日を、二人で迎えることが出来るかなんて分からない。

だからこそ、毎年この日を大切にし、そして誓う。



この世に、アクマも、イノセンスも、エクソシストも、ノアも、千年伯爵もいなくなったら。

私たちが、普通の人間に、普通の恋人になったら――。



「ねぇ、目を閉じて」



神田にそう言い、私も目を閉じる。

視界を覆う暗闇に、ふっと浮かび上がる愛しい彼の顔。



「お誕生日、おめでとう」



慣れない日本語でそう告げると、受話器の向こうで彼はフンッと鼻で笑った。

でも、それでも良かった。

この言葉を告げることが出来たのだから。









いつか、きっと。

(面と向かって、同じ言葉を君に捧げるよ)